2009年02月13日
テニスのフットワーク -3- (1576)
テニスの科学(28)
一般のプレーヤーにおいては、指導書を頼りにすれば、前述のようにフォアハンドストロークではスクエアかクローズ、バックハンドストロークではクローズが良いということになります。
それでは、一流プレーヤーは、どのようなスタンスで打っているのでしょうか。
もちろん技術レベルが違うので、一般のプレーヤーに比べてスタンスの出現頻度が異なるであろうことは容易に想像できますが、一流プレーヤーも一般プレーヤーと同じようにフォアハンドではスクエアやクローズが多く、バックハンドではクローズが多いのか、また、各スタンスの出現頻度はどれくらいなのかは非常に興味が湧くところです。
そこで、一流プレーヤーのゲーム中における各スタンスの出現頻度を調べることにしました。
調査したのは、調査時点での世界ランキング第1位のプレーヤー男女各1名で、対ストローカーと対ネットプレーヤーとの対戦について、それぞれ調査しました。
調査方法は、試合途中10ゲームのグランドストローク全ショットについて、その打球時点でのスタンスを1つづ記録していくという、大変原始的で根気のいる方法を選びました。
それが最も有効な方法です(でも、本当に大変な仕事です)。
そして、記録した全ショットをフォアハンドストローク、バックハンドストローク、フォアハンドリターン、バックハンドリターンの4項目に分け、それぞれの各スタンスの出現頻度を確認しました。
ビデオ分析の結果について、特徴的な点をまとめてみます。
1.フォアハンドはオープン
フォアハンドについては、ストローク、リターンともにオープンで打球する場合が圧倒的に多く、70%から80%の割合を示しています。
特に、女子プレーヤーのフォアハンドリターンについては89%と、ほとんどのショットをオープンで打球していることが示されています。
フォアハンドではスクエアかクローズが良いとする一般の指導書とはまったく異なります。
一流選手は違うのだ!といってしまえばそれまでですが、では、どこがどう違い、一般プレーヤーはいつから、一流プレーヤーのように打つ練習をすればよいのかという課題が残ります。
2.バックハンドストロークはクローズ
バックハンドストロークについては、男女のプレーヤーに共通して、対ストローカーではクローズが約50%と最も高い割合を示し、対ネットプレーヤーでは約80%と相当高い値を示しています。
バックハンドストロークについて、クローズの割合が高いことは、指導書で述べられていることと一致し、指導書の解説は正しいことになります。
では、相手プレーヤーのプレースタイルによって、バックハンドストロークにおけるスタンスの出現頻度が変わる、つまり、対ネットプレーヤーではクローズの割合が増えるのはなぜでしょうか。
ネットプレーヤーは、ネット付近で攻撃することが多く、それだけ角度を付けてショットすることが可能である(ワイドに攻撃できると言っても良い)。
そして、そのようなワイドに攻撃されたショットに対しては、当然、カバーする範囲が広くなり、遠位のボールに対して打球しなければならない機会は多くなるはずです。
その場合、バックハンドでは、ラケットを持つ手から遠いほうの打球を処理するために、踏み込み足を打球方向に大きく踏み出すことによって、身体の捻りを大きくする必要があります。
そのために、クローズが多くなると推測されます。
つまり、バックハンドでクローズが多いのは、利き手と反対側での打球に際して、身体の捻りを大きくする必要があるということです。
逆に、フォアハンドでは、身体を大きく捻る必要がさほどなく、そのためにオープンが多用されるのかもしれません。
どうも、身体の捻りとスタンスは密接な関係がありそうです。
3.バックハンドリターンは、オープン
バックハンドリターンでは、ストロークに比べて、オープンで打球する割合が増大しています。
特に男子プレーヤーでは、対ストローカーと対ネットプレーヤーでのバックハンドストロークにおけるオープンの割合は、それぞれ10%、16%なのに対して、バックハンドリターンでは55%、61%と、約40%もその割合が高くなっています。
女子のプレーヤーについても、バックハンドリターンでは、ストロークに比べてクローズの割合が減り、オープンとスクエアの割合が増えています。
2の結果について、バックハンドでは大きな身体の捻りが重要で、そのためにクローズが多くなるのであろうと推測しましたが、身体を大きく捻るためには、それだけ時間がかかります。
現代のスピードテニスでは、サービスは最も大きな武器であり、そのスピードは時速200kmを優に超えます。
そのために、身体を捻る十分な時間が無いと考えることができます。
その証拠に、サービススピードの速い男子プレーヤーの方が、リターンにおけるオープンの割合の増大が著しい傾向がみられます。
以上のことをまとめると、次のようになります。
1.フォアハンドでは、オープンが圧倒的に多く、バックハンドではクローズが多い。
2.バックハンドでは、ストロークとリターンではスタンスの出現の割合が大きく異なる。
3.身体の捻りと、相手のショットのスピードがスタンスに大きな影響を与える。
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