2009年04月30日
トレーニングの原則(1611)
トレーニング論(2)
トレーニングを行う時には、原則に則って指導します。
基本原則として、
・過負荷(オーバーロード)の原則
・漸進性の原則
・反復性の原則
・全面性の原則
・個別性の原則
・自覚性の原則
が挙げられます。
この中で、中高生を教える立場のコーチは、個別性の原則をよく考えて指導しなければなりません。
この時期、特に女の子は身体的にも精神的にも大きな変化をします。
胸も大きくなり、下着も変わり、そのことを強く意識するようになります。
ある実験で、裸の女性を突然衆知にさらすと、ほぼ間違いなく胸を最初に隠すそうです。
女性は、買い物かごを持つ時、無意識に上腕を脇につけて肘を曲げてかごを持ちます。
これも肩の力が弱いことに加えて、胸の意識が強いことと関係しています。
それだけ胸の意識が強いということです。
胸の意識が変わると、パフォーマンスに大きな影響を与えます。
テニスのストロークなどで、女性が腕を脇に強くひきつけて小さなスイングしかできない人が多いのは、そのことも影響しています。
それを矯正することはとても難しいことなのです。
でも、その意識は、赤ちゃんをしっかりと抱いて守るためには役立ちます。
そうした本能的なことも、この時期に形作られてきます。
こうした変化を良く知り、その特徴に合わせてトレーニングをプログラムしていかなければならないと思います。
また、基本原則に加えて、
・特異性の原則
・多様性の原則
・意識性の原則
が大変大切です。
特に、意識性の原則は、人間を扱う上でもっとも留意しなければならない点です。
人間は意識の違いによって、大きくパフォーマンスが変わります。
私は「曲がらない腕」の実験でそれを証明するようにしています。
(曲がらない腕)
腕を軽く曲げて準備します。
適当な人に(あなたを憎んでいる人や力のうんと違う人は困ります)、腕を持って曲げてもらうようにお願いします。
あなたはその力に抵抗して、曲がらないように力を入れてください。
同じくらいの力の人であれば、腕は簡単に曲がってしまうはずです(そうでなければ、相手の力がうんと弱いか、あなたは常人のものではない力を出すことができるということです)。
ひょっとしたら、密かに改造されているかもしれません。
一度検査をしてください。
いくら抵抗しようとしても無駄です。
明日、腕が筋肉痛になって泣くのはあなたですよ。
手の力を軽く抜いて(ここがポイント)、指先を前方に向けて準備します。
先ほどと同じように、腕を持って、曲げてもらうようにお願いします。
この時、「よし、今度は負けないようにがんばるぞ!」とは決して思わないでください。
適当に鼻歌でも歌いながら、そうですね、指先から水が出ていて、花壇に水でも撒くようなイメージを持ってください。
腕はホースです。
腕の中を水が流れて、指先から水が出ています。
さあ、相手が力を入れてきました。
何かやっているなあと思いながら、あなたは花壇に水をやり続けてください。
決してがんばってはいけません。
どうです。
腕は曲がらないでしょう。
これは結構有名な技なので、知っている人も多いかもしれません。
初めての人で、うまくいった人はびっくりですね。
うまくできなかった人でも、ちょっと訓練すればすぐにできるようになります。
肝心要は「力を抜く」ことです。
このように力を抜くことで確かにパワーはあがるのです。
この仕組みは、簡単に言うと、力を入れて抵抗しているときは、腕の後ろの筋肉しか使えないのですが、力を抜くと、肘の周りの筋肉が全て肘を固定するために協調して働くからです。
1つの筋肉よりも多くの筋肉を使う方が力は出るに決まっています。
この力を抜いた感じをしっかりと覚えてください。
テニスの多くのストローク動作では、これくらい力の抜けた感じで振れば、ラケットを支える力はあがり、また余分な力も入らないのでスイング動作はスムースになり、より安定した打球を打つことができます。
もちろん、打球スピードも上がります。
ということです。
ちょっとした意識を変えることで、パフォーマンスは大きく変わることがあることを理解してください。
強化は大切です。
しかし、何度も言っているように、
「その人の持っている能力を引き出すこと」
がもっとも大切なことです。
どうすれば、その能力を引き出すことができるのかを考え、具体的な方法を試行錯誤しながら行うこと、それがトレーニングです。
難しいことですが、大いなる好奇心を持ってチャレンジしてほしいと思います。
人気blogランキング参加中。読み終わったらクリックお願いします!!
2009年04月10日
人を扱う(1592)
トレーニング論(1)
実は、今年は「トレーニング科学」という講義も受け持っています。
トレーニングは専門なので、講義もさぞしやすいと思われるかもしれませんが、全くそうしたことの知識のない学生さんの興味を引きつつ講義をするのは結構難しいですね。
専門用語を並べたてて、勉強していない学生が悪い、などと主張する先生もいますが、それでは講義の意味はあまりないように思います。
できるだけ身近な話題を織り交ぜながら、スポーツやトレーニングにそれほど強い関心がなくても、「この講義をとって良かった」と思われるものにしていきたいと思います。
この講義を通して、一番理解してほしいことは「人を扱う」ということです。
人間はロボットではありませんので、その日の感情や体調、気合いややる気によって出せる力などは大きく変わります。
指導する側とされる側の関係によっても出せる能力は変わります。
だから、理論的にプログラムされ、成果は十分実証されているトレーニングであっても、その効果は人それぞれに違います。
それを十分に理解し、対応力を持って、その選手の能力を引き出すことができるように指導し、プログラムを作っていかなくてはなりません。
私は、過去のいくつかの失敗を通してそんなことを学びました。
愛工大名電高校野球部のトレーニング指導を受け持ったことが大きな財産になっています。
野球部では、最初の1年間、毎回違うメニューを作って指導してきました。
それをマネージャーがノートに書き留め、一年間で大学ノート4冊ほどのボリュームになりました。
毎回違うメニューを作るのですから、それは結構大変な仕事になります。
プログラムのアイディアに詰まった時などは、子どもたちがトレーニングをしている姿を思い浮かべます。
どんな場所で、どれくらいの時間で、どんなことに注意して、どんな順番で指導するのかを十分にシュミレーションします。
その中で、自分なりに納得できる内容を整理していくわけです。
こうしたやり方をしようと思ったのは、今までのトレーニング指導の方法に疑問があったからです。
マシンなどで筋力や体力を測定し、その数値に合わせてコンピューターが決められたプログラムを選んでいくという方法が良く行われていました。
しかし、こうやって画一的に決められたプログラムでは期待する成果が出ていないということや、環境に適しないプログラムが選択されるので、結局は継続的に実施されないという現実を見てきました。
「何か」が足りない、そう強く感じていました。
それから自分なりのアプローチを考えて得た結論は、トレーニングで一番大切なことは「人を扱う」、ということです。
まず、人と人との関係をうまく結び、相互理解を深め、信頼を築くことが何よりも大切だということです。
それさえ出来れば、乱暴に言ってしまえば「プログラムなんて何でも良い」と思います。
もちろん、そういう関係を作ることが大変難しいので、簡単に成果が出るとは言いません。
でも、そうした考えを持って指導を続けることで、きっと今まで以上の成果は出るとはっきりと言うことができます。
「人を扱う」ということは大変難しい、だからこそ本当に楽しい、そんな思いを持って指導をしていこうと思います。
そして、その思いを学生さん達に伝えていこうと思います。
人気blogランキング参加中。読み終わったらクリックお願いします!!