2008年05月14日
グリップを握るな(1303)
強くなりたいあなたに贈る100ぐらいの法則 -115-
実際の指導場面では、グリップを握る形を矯正するためのアドバイスとともに、「インパクトでぎゅっと力を入れて打ちなさい」とか、「もっとグリップの力をゆるめて」というようにグリップを握る「力の入れ方」をアドバイスする場合が多い。
「力の入れ方」については、インパクトでグリップを強く握ることによって「打球速度が速くなり」、ラケット面がぶれないので「コントロールも良くなる」と解説されている場合が多い。
つまり、「インパクトでグリップを強く握ること」は、テニスのパフォーマンスを向上させるのには不可欠ということである。
しかし、「インパクトでグリップを握り締めること」が、本当にパフォーマンスの向上に役立つのかについては疑問な点がある。
上級者と初級者のグリップ把持力を比較してみると、上級者ほどインパクト前後におけるグリップ力の集中性が高く、ばらつきが少ないことが多くの実験結果から導き出されている。
また、インパクト以外では、上級者よりも初級者の方が大きな力を出しており、上手く力が抜けないことが示されている。
これらの結果から、「インパクトでグリップを握るように打つべきである」と主張されることが多い。
「インパクトでぎゅっとラケットを握るように打ちなさい」とか「ラケットをインパクトでぎゅっと握って面がぶれないようにしなさい」というアドバイスはやはり正しいのだ。
「ふーん、そうか、やっぱりインパクトでグリップをしっかり握るように打つ方がいいのか。上級者はそうしてるからやっぱりその方が良いんだよな」
「よーし、インパクトでぎゅとグリップを握るように意識してボールを打つようにするぞ」
と思われた方、ちょっと待っていただきたい。
いくら上級者だからといって、インパクト前後のほんの短い間にこれほどまでに見事に力の大きさをそろえ、また力を発揮するタイミングを合わせることができるものであろうか。
しかも、それを意識して行うことなどは神業に近いものがある。
また、コーチの方も自分が実際にボールを打っているところを冷静に考えていただきたい。
はたして、インパクトでグリップを握るように意識して打っているのであろうか。
インパクトの瞬間にグリップを握るように意識して打つことは大変に少ないと思う。
確かにそういうことを意識して練習することはあるが、プレー中はほとんどそんなことを考えて打つことはない。
では、上級者と初級者の違いは何であろうか。
それを探るキーワードは「反射」である。
筋肉が動くとき、生まれつき備わっているメカニズムで発生する筋肉の動きが「反射」である。
生まれたばかりの赤ちゃんは両手を握り締めており、手のひらに触ってやると握る力がさらに強くなる。
これを「把握反射」という。
ラケットをスイングして、その遠心力が手に伝わると、その力で指を伸ばそうとするが、それに抗するように握る力を強める反射の働きを上手く利用してスイングをしているのが上級者なのである。
つまり、「グリップを握る」ということは、
1.自分から能動的に(意識して)グリップを握る力
2.スイングの遠心力に抗して反射的に発揮される力
の2つがある、ということである。
そこで、いままでの指導を振り返ってみると、「自分で能動的に発揮する力」のことだけを考えてアドバイスを行っていたのである。
しかし、手を上手に使うには反射の機構を上手く利用することが重要であり、その運動を繰り返して行っているうちにはじめて運動を上手に遂行することができるようになる。
しかし、「実際に、インパクトでぎゅっと握るように打つとコントロールが良くなり、スピードも上がる。」と、反論される方もいるだろう。そこで、
A.普通に打ってください
B.インパクトでグリップをぎゅっと強く握るように打ってください
C.力を抜いて打ってください
D.ラケットを支えるように持って打ってください
E.力を入れて打ってください
という5つのアドバイスにしたがって打球したときの、グリップ力とボールコントロール、ラケットのスイングスピードを調べてみた。
この実験で得られた結果をまとめると、次のようになる。
1.力を入れるように意識して打つと、インパクト時点やインパクト前の力のばらつきが大きくなる。力を入れて打つと、常に緊張状態にあるので、インパクト時に適正な力を発揮することが困難で、また力発揮のタイミングも取りづらくなると考えられる。
2.上級者は各アドバイスごとでグリップ力の変化があまり見られないのに対して、初級者はグリップ力の変化が大きい。初級者ほどアドバイスの影響を受けやすく、それに対して上級者はインパクト時にグリップをどれくらいの力で握ればよいのかという運動プログラムが作られていて、反射的にグリップ力を調整していると考えられる。
3.力を入れすぎはもちろんのこと、リラックスしすぎても良くない。適切な力でグリップを握ることが重要である。「力を抜いて」のアドバイスは指導に際して注意を要する。
4.アドバイスによってスイング速度にあまり差は生じない。インパクトの瞬間に、グリップをぎゅっと握るようにアドバイスすることは、スイング速度を高めるのにそれ程有効なアドバイスではないと思われる。
指導書に解説があるように、「インパクトでぎゅっと握る」ことによってスピードが増す、ラケットの面がぶれないのでコントロールが良くなるとことはあまり期待出来ないという結果になった。
出来るだけグリップの力は抜いておいて、体全体を使ったスイングを行うようにすることが望ましい。
そして、くりかえし打球しているうちに反射的に、適確なグリップ力を発揮できるようになってくるのである。
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