2008年05月07日
グリップが違うと何が変わるのか(1296)
強くなりたいあなたに贈る100ぐらいの法則 -112-
私は、フォアハンドストロークにおけるグリップの違いがどのように身体動作に影響を及ぼすのかを調べてみたことがある。その結果、グリップが違うと次のような影響が出ることが分かった。
1.インパクト位置が違う
グリップの違いよってインパクト位置は異なる。
しかし、前後方向や左右方向(ネットに対して)については違いが見られず、高さのみに違いが見られた。
ウェスタン系のグリップではインパクトの位置が低くなる。
これは、トップスピンをかけようと自然と下から上へのスイングを意識するからだ。
実は、この調査をする前は、前後方向にも違いがあるのではないかと予想していた(指導書にはそのような違いがあると書いてあるものが多い)が、この予想は見事に裏切られたわけだ。
未発表の資料であるが、上級者のサービスについては、グリップに違いがあっても、それほどインパクト位置に違いが無いことが確認されている。
たぶん、上級者は自分がもっとも打ちやすいインパクト位置を感覚として感じ取り、それに対応するように動きを調節する能力が高いのである。
フォアハンドストロークについても同じように、上級者はそれまで自分が培ったインパクトの距離感を無意識のうちに調節するのに対して、初心者は、どのグリップでもインパクト位置は一定しない。
この点では、コンチネンタル系のグリップが極めて優れているなどとはいえない。
2.身体の向き(傾き)が変わる
上空からのカメラから両肩を結んだ線とネットの角度(体の開き)、両肩と上腕との角度(脇のあき具合)、両肩がどれくらい下がるかなどを調べてみると、体の開きや脇のあき具合は、どのグリップでもそれほど大きな違いは見られない。
これについては、関節の角度とパワーとの関係を調べた研究がひとつの示唆を与えてくれる。
これらの研究では、すべての関節において、ある関節の角度でもっともパワーが高くなることが知られている。
特に上腕と肩のなす角度は体幹のパワーを上腕に伝達するために大変に重要である。
そこで、上級者のレベルになると、たとえグリップが違っても、もっともパワーの出やすい角度を身体が覚えていて、無意識のうちにその角度になるように調節するのである。
卓球においても、持ち方の違いがこの角度に影響を及ぼさないことが確認されている。
ただ、ウェスタン系のグリップでは肩が大きく傾く(下がる)ことが観察されている。
これもトップスピンをかけようとして下から上へのスイングを意識するからである。
3.インパクトでの手首や肘の角度が変わる
これらの関節角度については、グリップの違いが直接的に影響を及ぼすので、少なからず違いが見られる。
特にウェスタン系のグリップでは脇が締まり、肘や手首が強く曲がる傾向が見られている。
4.スイングの方向が変わる
ウェスタン系のグリップではスイングの方向は下から上になる。
トップスピンを打とうとして、手首や肘を強く曲げ、無意識的に身体を動かした結果である。
このようにグリップが全身の動きに及ぼす影響を見てくると、少なからず影響を及ぼすものの指導書にあるような大きな違いは見られない。
ゴルフの実験結果でも3種類のグリップ(オーバーラッピング、インターロッキング、テンフィンガーグリッピ)について検討した結果、クラブフェースの方向性やスピードなどに対する影響は観察されず、グリップの形は問題でないように考えられている。
しかし、同じようなグリップに見えても、個人個人で違う微妙な差が大切なのである。
その微妙な差は、個人の骨格や体格、筋力等の身体的な要素のみならず、考え方や好みといったメンタル的な要素をも含んで、感覚を頼りに形成されてくるものである(だから一概にどのグリップが良いとは言えない)。
また、上級者はグリップの違いがあっても自分がもっともうまく打球することができるように身体の動きを調節している。
このような自動化(無意識化)された動きが優れたパフォーマンスには必要で、グリップの形だけにとらわれるのではなく、全体の動作がスムースに連動するようにトレーニングする必要があるだろう。
「人間にとってもっとも自然なグリップとは何か?」という問いに対して、今回の調査だけで断定できるものではないが、初心者であっても自分の感覚にしたがってグリップを握るので、それをはじめから矯正するべきではないということは間違いない。
ただ、これは観察だけの結果であるが、幼児に異なるグリップでボールを打球させてみると、意外にもフルウェスタングリップがもっともスイング動作がスムースで安定しており、その結果良いボールが打球できる確率が高いことが確認されている。
これは、コンチネンタル系のグリップは前腕の回内動作が必要となるが、この動作は後天的に獲得される動作なので、その動作が獲得されていない、もしくは未熟な幼児ではそうした回内動作を伴わないウェスタン系のグリップのほうが自然だということができるかもしれない。
最近のプレーヤーは小さい頃からテニスを始めるケースが圧倒的に多く、その時、「何も考えずに」ラケットを握っていたのがそのまま「自分のグリップ」となったというケースは多い。
そう考えると、フルウェスタンのグリップは決して特別なグリップではなく、実は最も自然なグリップかもしれない。
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